この事態における学び合い 先生の挑戦と生徒の思い <栗木>

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小学校では今年から、新学習指導要領に基づいた教育が完全実施です。というよりは、完全実施されるはずでしたという方が妥当でしょうか。今学期が始まっていない学校が多いのですから。

新学習指導要領には、「これからの社会が、どんなに変化して予測困難になっても、 自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現してほしい。」という願いが込められています。改訂の考え方として強く打ち出されてきたのが、「主体的・対話的で深い学び」を目指す授業改善です。教師の教えを一方的に受信する教育や知識・技能の習得を急ぐ教育ではなく、子どもが主体となってわからなさや困難さに自ら向き合い、仲間と協同しながら探究、思考、発見、創造していく「学び」にあふれた授業が大切です。ところが、今、その「学び」の場が奪われています。まさに、「予測困難」な事態が起こってしまったために・・。

世間では長期化する休校に、学習の遅れを危惧する声が高まり、各自治体や学校が工夫して、子どもたちの学力を保障しようとしています。ここでいう「学力」が、単に知識や技能の習得だけであってはならないと考えます。学力は「学び力」です。探究し、思考し、発見し、創造していく力がストップしてしまうことを恐れています。

ここに、離れていながらも僅かなつながりを活かして、「学び力」の継続に挑戦した一人の先生の工夫と生徒の思いを記します。
一公立中学校の社会科の先生です。二年生で歴史を担当していた昨年度末、全国一斉休校により単元の一部を積み残して終えることになってしまいました。四月になっても休校は続き、加えて、新年度は担当学年が変わることになりました。生徒たちは社会を、そして学びを楽しみ、なぜだろう、どうしてだろうと、同時代性に立って歴史を考えることを身に付けてきました。何とかして学び力を継続させたい、そう思った先生は、オンライン授業を考えました。オンラインといってもその学校にあるのは、学校ホームページと学校メール。一人一台のPCもありません。それでも、一方的な知識の伝達にならない方法はないか模索し、たどり着いたのが動画配信とメール送受信です。

教室で行われていた授業は、毎時間資料の提示から始まります。歴史ならば風刺画や当時を反映した絵画等が主です。生徒はそこから気づいたことや気になったこと、浮かんだ疑問を見つけ、仲間と対話しながら探究し、考えを繋ぎながら当時の人間の生き方や思想に迫っていくという授業でした。それと同じことを動画で行ったのです。一本目の動画は課題提示として資料を投げかけます。生徒には気づきをメールで送ってほしいと伝えました。始める前、返事は来ないと思っていたそうです。ところが、予想に反して初日から返事がきました。しかも複数。「上の絵は、何かが燃えていて、それを見て人々が喜んでいることに気が付いた。」「真ん中の絵は、武器を持って反乱している人々を政府の人達が止めている様子かなと考えた。また、上で燃えているのも反乱の一部なのかなと考えた。日露戦争に勝ったばかりなのにどうしてだろう。」これらを先生がつなげ二つ目の動画にして配信します。それを見た生徒がまた考えたり調べたりして考えを深めます。「僕は、この頃の国民は政府に『もっと戦争をしろ』というだろうと考えた。なぜなら日清戦争・日露戦争と二回続けて勝っていて、国民は苦しくても国自体は一度も攻撃されたことがないから、国民は負けることについてあまり考えないだろうし、日清戦争では賠償金がもらえ、いい思いをしただろうから、国民は『戦争をして勝てばいい思いできる』という考えになりそうだなと考えたからである。」というようなふり返りがメールで送られてきて、それをまた3本目の動画で紹介します。これを続けること約1か月。回を重ねていくうちに参加生徒も増え、最後の動画にはこんなメールが。「毎回メールすることは出来なかったけど、ただ教科書を見て暗記するだけでなく、ちゃんと考えて勉強できました。3年生なっても、話し合いと発言を大事にします!」
 
さらに予期せぬプレゼントが届きました。生徒の代表がラインで仲間の声を集め、先生にお礼のメッセージを送ってきてくれたのです。半数以上の生徒が参加していました。「人とかかわらないことがどれだけ人をだめにするか。かかわることの大切さを学べるのは学校がもつ意味の一つ。」先生の信念と愛情が生徒の心と学び力を動かしました。

この先生の挑戦は今、全教員に広がり、学校を元気にしました。顔は見られなくても心はつながります。つながることで学びは続きます。また、学びはその学級の先生と児童生徒のあうんの呼吸で育まれるもの。学級色豊かな学びが続いていくことを願います。

、「スクールライフノート」の機能を使えば、こういうつながりが生まれることも記しておきます。
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